写真とその周辺

写真とその周辺/人工の自然

信州に通い初めてどのくらい経つだろう。数えてみるともう15年ほどにもなる。カラマツ(唐松)の林が多いと思い始めたのはいつの頃だろうか。よく分からないが、 通い初めてすぐにそのような感覚を覚えたような気がする。カラマツは落葉松とも書く。日本では針葉樹は落葉しないが、この松は落葉する。春はもえぎ色の新緑、秋は黄色からやや明るい茶色となり、冬は霧氷を纏い、四季を通 じて色の変化が楽しめる。しかし、どうしてこんなにカラマツが多く植林されているのだろう。植林カラマツは建築用の柱材には向かないと大工さんから聞いたことがある。 材がねじれるからだそうだ。 

八ヶ岳や蓼科山の、標高の高い辺りで天然のカラマツを撮影したことがある。自生するカラマツは樹齢がいっていることもあり、大きく風格もある。また規則正しく植えられた植樹ものに比べ、気候が厳しいせいもあってか、その枝は風の方に流れ、幹もごつごつしてワイルドな雰囲気だ。

湖北夕景

植樹のものはそれぞれを見るとワイルドな雰囲気はない。しかし、カラマツの林は少し高い位 置から見下ろすときれいだ。天然ものには無い、真っ直ぐに伸びた幹と穂先の、規則的な並びが作る、森のパターン。雪や霧氷が付いた枝の白さと幹の色とのコントラスト。植林のカラマツ林も時間とともにそれぞれが大きく成長し、カラマツの森へと姿を変えてゆく。このような人工の林も、伐採されなければ、いずれは自然の雰囲気が豊かな森となるのだろう。 

写真作品の背景には、それを撮影した人それぞれの心の動きや思いがある。撮る前に考えること、撮った後に思い浮かぶこと。  雪の付いたカラマツの枝に鳥が止まっていた。空を飛ぶ鳥の目で見たら、この風景はどんな風に映るのだろうか。その雰囲気で撮影後に構図をまとめなおしてみる。人工の自然である。

2002年3月5日 写真とその周辺/井口育紀

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