写真とその周辺

写真とその周辺/古くて新しいもの? 真空管

この数ヶ月のあいだ、何がトリガか、なぜか気になり始めたものがあった。真空管アンプである。もうかなり昔のことになるが、私が子供のころには真空管を回路素子として使ったラジオやオーディオアンプはあたりまえの存在であった。そんな過去からの影響なのか、それともなんでもかんでもデジタルの世の中だからであろうか。いずれにしても頭から離れなくなった。 ウェブ上のいろいろなページで真空管アンプの今を探索しているうちに、Triode社のTRV-A300SEという製品が気に留まった。プリアンプにGT管の6SN7を使い、出力管にはST管の300Bを使ったA級アンプである。きわめてシンプルな構成で価格的にも比較的手頃である。ハイエンド・オーディオ、あるいはピュア・オーディオとしての真空管アンプというものはかなり高価なものだし、私には使いこなせもしない。また予算的にも手が出せない。

真空管画像
アンプ画像

そんなことからコスト・パフォーマンスの良さそうなTRV-300SEに気が向かっていったわけであり、一方ではシンプルな純A級、出力8W+8Wの求めず過ぎないスペックにも魅力を感じた。 このアンプに駆動させるスピーカーはVictor HMVシリーズ、SX-V1X-M、効率87dB、ブックシェルフ・タイプの2Wayコンパクトである。SACDプレーヤーはDENON DCD-SA500。私はオーディオマニアでもなく、ましてやレコード演奏家のような存在でもない。全体のシステム構成は特に何のポリシーもないものだが、それぞれ長く聞き慣れたものたちだ。 そこまで決まるとますますこの真空管アンプを聞いてみたくなった。しかし私の住んでいる茅野市周辺に置いていそうな店もなく、近くでいろいろ探したところ、松本にあるオーディオ・ショップで試聴可能ということで、何枚かのCDを持って早々出かけて行った。試聴の結果は、飾らず、不足でもなく、クリアで、これはこれで十分といえる雰囲気であった。迷わずもっとじっくり聴いてみようと思い、持ち帰った。

何事もそうではあると思うが、上を見ればきりがなく、下を見ればそれもきりがない。音楽を聴くための道具もそうではある。しかし、今回の真空管アンプをじっくり聴いていて思ったことは、非常に複雑な回路構成を持つ最新のトランジスタアンプと、この昔ながらの(そのように言っていいのかどうか?)真空管アンプを比較して、どれだけの進歩がこの数十年の間にあったのだろうかということである。

確かに、音楽再生の装置としてのピュア・オーディオのハイエンドは次元も高く完成度を増してはいっているのだろう。しかし、真空管アンプとしては比較的低価格なTRV-A300SEのようなものの存在も、その再生能力から見れば、十分に意味のあることだと思う。

今の時代に真空管アンプもまだまだ多く生き残っている。思ったよりもである。それは単にそれが主流だった時代に生きてきた人たちの時代へのノスタルジー、あるいは懐古主義のようなものだけなのだろうか? 確かにそれもあるには違いない。しかし、真空管アンプの音を聴いてみると、決して古くさい音がするわけではない。

真空管というデバイスを用いても現代的なアンプを構成できるというだけのことでもあり、加えて真空管ならではの音というのもあり、また真空管ならではの見た目のある種の美しさや、暗闇に光るカソードヒーターのやわらかな光の暖かさや、見たことのない人には、こんなもので音がだせるのかという少しの驚きなデバイスという存在感なのか?

いすれにしても、全てが画一的である必要はない。真空管も存在できるところまで存在すればいい。存在できるということは、そこに何かがありそれを求める人が居るということであり、多様な感性が存在するということでもある。

 

2007年3月4日 写真とその周辺/井口育紀


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